環境特集
SDGsを目指して儲けるエコの新潮流「サーキュラーエコノミー」
新しいビジネスモデルを生み出す循環経済システム
環境への悪影響を抑えながら、いかに生産と消費を拡大するか。その回答のひとつがサーキュラーエコノミーだ。直訳すると循環経済。環境の話で循環といえば、3Rを思い浮かべる人もいるだろう。リデュース(廃棄物低減)、リユース(再使用)、リサイクル(再生利用、再資源化)。サーキュラーエコノミーは、その3Rよりもっと広い視野での循環、持続可能性を考えて、利潤を追求する経済システムを意味する。
資源、素材、製品それぞれの価値を可能な限り長く保全、維持し、廃棄物を最小限化することで、SDGs(持続可能な開発目標)の達成につなげる実践的な考え方のひとつでもある。
注目されるようになったのは2015年、EU(欧州連合)が新政策として打ち出した「サーキュラーエコノミーパッケージ」がきっかけ。埋め立て処分量の縮小など環境に関連した政策ながら、200万人の雇用と6000億ユーロの経済価値創出を掲げたことが高く支持された。
サーキュラーエコノミーの概念は、製品の長寿命化にも及ぶ。ひとつの製品が長く使われるほど資源の廃棄が減るからだ。そのため保守・修理業が循環経済を支える。シェアリング(共同所有)も重要な要素。例えば休日しか運転しない自動車は資源としてみると"放置"されている時間が長いが、カーシェアリングによって自動車の稼働が増えれば資源が有効活用される。
牛乳配達を進化させた循環型プラットフォーム
サーキュラーエコノミーの視点を取り入れたビジネスモデルで今、急速に存在感を高めているのはアメリカのベンチャー企業、テラサイクル社が手掛けるLOOP(ループ)だ。再利用可能な容器ボトルを用いて、日用品や食品などをEC(電子商取引)や小売店で販売し、使用後に容器ボトルを回収し、洗浄、再充填の後に再販売することでごみを減らす仕組み。昔ながらの牛乳配達を進化させたようなビジネスモデルで、日用品や食品などのメーカーと提携して、各工程を分業化しているのが新しい。輸送や洗浄にかかるコストはテラサイクルが負担し、商品を売るメーカーは販売量に応じた手数料をテラサイクルに支払う。現在20カ国以上で展開。日本では小売店パートナーとしてイオンが、ブランドパートナーとして味の素、江崎グリコ、エステー、キッコーマン、キリンビール、資生堂、ユニ・チャームなどが参加している。
ブランドパートナーは、手数料のほか、容器の開発費や充塡設備のコストも必要になる。それでも対策を講じるのは環境に配慮した商品を求める消費者が増えているためだ。消費者庁の2019年度調査によると、環境に配慮した食料品、日用品について、通常価格より1〜10%高くても購入すると回答した割合は70%強と、2016年度の前回調査から20ポイントほど上昇した。こうしたエシカル消費への関心が高まっていることに加えて、世界人口の増加に対応するためにもサーキュラーエコノミーは必要だ。国連の推計によると世界人口は現在の77億人から2050年には97億人となる。もし従来の「作って、売って、使って、廃棄する」リニアエコノミーを続けていれば、地球上の資源が不足し、生物多様性が失われ、貧困、飢餓、不平等といった問題がさらに深刻化するのは容易に想像できる。だからこそサーキュラーエコノミーの視点が重要であり、SDGsとも密接に関わってくる。世界経済のなかで長い間続いてきた生産と消費のあり方をがらりと変える可能性を秘めている。