環境特集
自然からの警告感染症と環境破壊の関係
急増する動物由来感染症
世界中で多くの犠牲者を出し続けている新型コロナウイルス感染症。その発生源を巡ってWHO(世界保健機関)は今年3月、「動物から人間への感染が最も可能性が高い」とし、中国の武漢ウイルス研究所から流出したと疑う説をほぼ否定した。
これに反発し、再調査を求める声が一部で上がっているが、感染症と環境破壊の関係も見過ごせない問題だ。
新型コロナウイルス感染症に限らず、SARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)など、かねてから新しい感染症が私たちの生活を脅かしている。そしてその多くが動物由来であることが分かってきた。動物由来感染症は、前述のSARS、MERSはもとより、ペスト、マラリア、デング熱、狂犬病、結核、エボラウイルス病、チクングニア熱、鳥インフルエンザなど、WHOが確認しているだけでも200種類以上ある。日本は島国で衛生観念が強いこともあり、感染事例が比較的少ない。
しかし、諸外国では新しい動物由来感染症が増え続けており、コロナ禍の前から経済にも打撃を与えている。経済損失は過去20年で1000億ドル。これに新型コロナウイルス感染症による損失額が今後数年で新たに9兆ドル以上加えられると推定される。
人と自然の壊れた関係の代償
18世紀以降、ワクチンの開発や抗生物質の発見により、感染症の予防や治療が飛躍的に進歩した。1980年の天然痘根絶宣言によって、感染症はもはや驚異ではないという風潮になった。ところが現実はそうでなく、新旧の動物由来感染症が次々と発生。背景にあるのは私たちの生活や社会の変化だ。
人は利便性や快適性を求めて、資源の採掘、農地の開拓、道路の整備、都市の開発を進めてきた。その代償として自然や生態系が破壊。人と離れて生息していた野生動物は、餌や棲みかを失い、人の生活圏に出没するようになった。それまでは明確だった人と野生動物との境界があいまいになり、人の近くにいる家畜(鶏、豚、牛)やペットなどを仲介して、新たなウイルスを拡散させるようになったのだ。さらに交通手段のめざましい発展による膨大な人と物の移動、都市化による人口集中、食肉消費量の拡大に伴う家畜の増加が感染症拡大に拍車をかけ、パンデミックを引き起こしている。
1976年から2019年までに30回を超えるアウトブレイク(感染症の突発的発生)を繰り返すエボラ出血熱も動物由来感染症だ。感染力が強く、発病後の致死率は型によって最大90%、感染者の遺体からもうつる。発生源は、熱帯雨林の奥地に生息し、「空飛ぶキツネ」の異名をとる体長約1m のオオコウモリだと考えられている。エボラ出血熱の流行は、アフリカの資源開発によって森林が破壊された直後に発生することが多く、それら一帯に生息するオオコウモリの狩猟と捕食によって感染が広がったと見られている。
新型コロナウイルス感染症の発生源については今後、新たな展開を見せるかもしれないが、動物由来感染症の続発要因が、自然破壊と過密社会にあることに変わりはない。生態系を含めた環境保全のための対策を講じなければ、動物由来感染症は今後も増え続けると、国連の専門家らは警告している。