環境特集
自然資本に立脚した企業価値の創造ネイチャーポジティブと経済
高まる期待と自然資本の重要性
今、地球は過去1000万年間の平均と比べて10〜100倍もの速度で生物が絶滅しているという。このネガティブな状態を止めるだけなく、回復軌道に乗せてポジティブな状態にしていく「ネイチャーポジティブ」という考え方が世界中に広がっている。昨年のG7広島サミット(主要7カ国首脳会議)やCOP28(第28回気候変動枠組条約締約国会議)でもネイチャーポジティブは重要案件のひとつとして掲げられた。2030年までに実現することが世界共通の目標だ。
今年3月、環境省など4省は「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」を発表した。同戦略は、ネイチャーポジティブの取り組み企業にとって単なるコストアップではなく、自然資本(天然資源)に根ざした経済の新たな成長につながるチャンスであることを分かりやすく示し、「ネイチャーポジティブ経営」への移行を促す内容となっている。では、ネイチャーポジティブ経営とは何かといえば、同戦略で次のように定義している。「自社の価値創造プロセスで自然の保全をマテリアリティ(重要課題)と位置づけ、バリューチェーンにおける自然への負荷を最小化し、製品・サービスを通じて自然への貢献を最大化する経営」。要は、自然資本に配慮しながら企業価値を高める経営だ。
もっとも、そのようなことをすでに実践している企業は多いだろう。例えば自然保護、資源循環、省エネなど、これらはカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーの実現に向けた取り組み。ネイチャーポジティブの特徴はそれらを連携させることにある。WEF(世界経済フォーラム)の推計によると、ネイチャーポジティブ経済に移行することで2030年までに全世界で年10兆ドル規模のビジネス機会が見込まれる。
日本で年47兆円のビジネスチャンス
WEFの推計結果を日本にあてはめて環境省で試算したところ、2030年の新たなビジネス規模は約47兆円。分野別で見ると、エネルギー・採掘活動が約25兆円、インフラ・建設環境システムが約10兆円、食料・土地・海洋の利用が約13兆円。具体的には▽食品廃棄物を削減するための冷蔵システムの購入・維持・管理、▽エネルギープラントの共有インフラが生態系に与える影響を低減するための改修、▽新築建物の冷暖房や照明のエネルギー効率を向上させるための研究開発に関わる投資などが想定される。また、企業の最先端技術を含めた自然資本の情報開示の拡充とそれに伴う資金流入が期待される。
環境省によると、波及効果も含めた経済効果は約125兆円、雇用効果は約930万人に及ぶという。数字があまりにも大きく、雲をつかむような話に思えてしまうかもしれないが、根本にあるのは、各企業のネイチャーポジティブ経営である。今後、インセンティブとなるような税制優遇や補助金、認証制度など、ネイチャーポジティブ経営を後押しする施策が次々と打ち出される。
ネイチャーポジティブという潮流は今後、ますます勢いを増していきそうだ。