環境特集
気候変動が生む新たなアパルトヘイト
1度上昇による貧富格差の拡大
世界各地で異常気象が頻発している。ハリケーンや集中豪雨、干ばつは温暖化との関連が指摘され、対策を求める声が高まっている。昨年12月、地球温暖化対策を話し合う国連の会議「COP25」では、危機感を強める世界の若者たちが声を上げた。そこで出たキーワードのひとつが「気候アパルトヘイト」だ。
アパルトヘイトは本来、アフリカーンス語で「分離」「隔離」を意味し、かつて南アフリカ共和国で行われていた人種隔離政策を指す。人口の2割に満たない白人支配層が、政治、経済、文化などあらゆる分野にわたって残り8割強の非白人を差別した。気候アパルトヘイトは、こうした負の意味合いを、温暖化による貧富格差になぞったもの。ひいては人種差別と同じような事態になりかねないと強い危機感が込められている。気候変動の原因を作った先進国が経済力で自然災害から自国を守ろうとする一方で、途上国の貧困層は経済的余力がないゆえに対策を講じられず、被害にあえぐ。このままでは民主主義の原則さえも脅かされる。
そもそも気候変動は、人間の活動によって、産業革命時から地球の平均気温が1度上昇していることに起因している。この1度上昇が、さまざまな大規模自然災害を誘発し、生活や社会を脅かしている。猛暑が続けば空調なしの暮らしが難しくなり、熱中症やそれに伴う病気など健康上の問題が広がっていく。例えばインドや中米の農村では、気温上昇による脱水症状が原因で腎臓病が増えているという。
沿岸都市の大半 海面上昇で水没
気候変動による影響が最も大きい国のひとつがバングラデシュだ。以前から人口過密と貧困にあえいでいたが、近年は洪水被害が深刻化。感染症の流行に加えて、海面上昇に伴う水没で住まいを追われる「水没難民」が急増している。このまま海面上昇が続けば2050年、国土の15~20㌫が水に沈むと警鐘を鳴らす専門家もいる。これはバングラデシュだけの問題ではない。海岸線から100㌔㍍以内に暮らしている人の数は世界人口の3分の2以上。つまりそう遠くない将来、水没難民が世界中で生まれる可能性がある。
気候変動がもたらす危機から一時的に逃れるには、やはり経済力がものをいう。助かるのはまず先進国で、貧困地域は対策に費やす余力がないため、生活環境は悪化する一方だ。人権すら保障されず、かくして新たなアパルトヘイトが生まれる。見過ごせないのは、気候変動を引き起こしている温室効果ガス(主にCO2)排出量の約半分を世界上位10㌫の富裕層が生み出しており、下位50㌫の貧困層35億人の排出量は1割に過ぎないという点だ。私たちの快適な社会は、貧困層の犠牲の上に成り立っているといっても過言ではない。そこで最近、槍玉に上がったのがプライベートジェットだ。環境に与える負荷が、利用者1人当たりに換算するとあまりにも大きく、実際に利用している一部のセレブが環境問題に取り組んでいることに「偽善だ」と批判する声が高まった。ところが、こうした話題は、新型コロナウイルスの感染拡大によって二の次にされるどころか、皮肉にも予防対策からプライベートジェットの需要は急増しているという。アパルトヘイト撤廃からおよそ四半世紀、果たして歴史は繰り返すのだろうか。