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DXセミナー

中東では再エネも原子力もクリーン電源
日本エネルギー経済研究所中東研究センター主任研究員 佐藤 佳奈さん

 さとう・かな 2013年東京外国語大学ペルシャ語学科卒。イランの核問題に関する包括的共同作業計画(JCPOA)の締結をきっかけに16年からアラブ首長国連邦(UAE)に渡り、政府系金融機関においてリサーチャーとしてイラン及びその他中東諸国の政治・経済、インフラなどのプロジェクトの調査に従事。各国政府機関との関係構築にも注力し、金融や技術に関するワークショップを複数企画。その後、中東に特化した欧州系法律事務所で日本企業の中東進出や事業を支援した。2022年10月に日本エネルギー経済研究所に入所し、現職。

COPで多様な対策を明記

 ――イスラエル・パレスチナ紛争を起点とする中東地域の紛争は、イランとイスラエルの直接交戦によって緊張が高まり、中東情勢は著しく不安定化しています。原油価格や原油供給への影響が心配されます。

 「2024年4月にイランがイスラエルをミサイル攻撃し、イランとイスラエルの直接交戦が勃発した時は原油価格は多少上昇しました。同年10月の交戦の際も同じでした。しかし、原油価格に多少の変動はあっても、22年2月のウクライナ侵攻後に北海ブレント原油が1バレル=110ドルを超えたような混乱は起きていません。24年10月で約75ドル、1~10月平均でも80ドル台で推移し、大きな変動はありませんでした。供給面でもイエメン・フーシー派の攻撃によって紅海ルートに航行不安が生じたため、原油輸送は少し遠回りにはなりますが、南アフリカの喜望峰ルートで行われています。サウジアラビアはアラビア半島西側で敷設を進めていたパイプラインの運用を24年11月に開始し、紅海ルートに依存しない原油輸送を確立しました。湾岸産油国は世界への石油供給者としての強い自負を持っており、供給を止めない責任も自覚しています。石油は自国の財政を支える収入源でもあり、供給自体は工夫を凝らしながら続いていくと思います」

 ――日本は原油輸入の9割以上を中東諸国に依存しています。中東で紛争が起きるたびに日本のエネルギー安全保障の脆弱(ぜいじゃく)性が問題になります。

 「現状はイランとイスラエルの対立が、日本の原油調達に影響する可能性は小さいと思います。イランは日量170万バレルを中国向け主体に輸出しています。OPEC(石油輸出国機構)が24年11月の総会で200万バレルの減産継続を決めたのは、需給バランスと価格を考慮して判断したものですし、仮にイラン原油が止まったとしてもOPECの減産分でカバーできます。また、イランは近年、湾岸産油国との関係改善に動き、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェートの湾岸産油国はそれぞれ国交を正常化しており、懸念されるホルムズ海峡封鎖のリスクは低いと思います。とはいえ、中東情勢が不安定化しているのは確かで、原油輸入での中東依存度が極めて高い日本としては、調達先の多角化を進める必要があります。米国からの輸入を増やすなどの対策を進めていくべきです」

 ――温暖化対策を協議する国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)は、23年のCOP28がUAE、24年のCOP29はアゼルバイジャンと、2年連続で産油国で開催されました。

 「UAEで23年12月に産油国で初めて開かれたCOP28では、石油や天然ガスなど化石燃料の位置づけが焦点になりました。化石燃料の段階的廃止を迫る欧米先進国に対し、経済成長に化石燃料はまだ必要だと訴えるグローバルサウス(南半球の新興国・途上国)や、削減すべきはCO2で化石燃料ではないと主張する産油国が対立。最終的には『化石燃料からのトランジション(転換)』で合意し、合意文書には、脱炭素対策として「ゼロカーボン・低炭素燃料の利用、原子力の活用」などが盛り込まれました。加えて『移行燃料はエネルギー安全保障を確保し、エネルギー転換を加速する』として、CO2排出量の少ない天然ガスを移行燃料と位置づけました。脱炭素の実現に向けて様々な手段を明記したわけですが、産油国だからこそ現実的な道筋を提示し、説得できたと思います。また、COP28で米エネルギー省が発表した『50年までに原子力の発電容量を3倍に増やす必要がある』とする多国間宣言への署名国は、COP29で6カ国増えて31カ国となり、中東産油国では原子力は脱炭素に貢献するクリーンな電源とみなされています」

 2024年9月に4基すべてが稼働したUAEのバカラ原子力発電所(UAE原子力公社提供)

アンモニアで日本と協力進む

 ――中東産油国は化石燃料を収入源とする一方、脱炭素への動きを強めています。

 「中東産油国の再生可能エネルギーや原子力発電への投資は、元をたどれば石油依存経済からの脱却に端を発しています。UAEは10年に、サウジは16年に経済多角化戦略を打ち出し、併せて太陽光発電などの再エネや原子力の開発に乗り出しました。これが世界的な脱炭素の動きに合致し加速しています。UAE、サウジなど中東産油国は、日射量の多い気候条件や国土に適している大規模太陽光発電開発に注力するとともに、近年はCCS(CO2回収・貯留技術)を活用して産出した石油・天然ガス資源を原料として、ブルー水素・アンモニアを生産し、輸出する計画を進めています。太陽光などの再エネの電気を使うグリーン水素・アンモニアの生産にも取り組んでおり、中東の脱炭素戦略で先頭を走るUAEは、ブルー、グリーンの色を問わず、国際市場の獲得を目指す考えです。発電時にCO2を排出しないクリーンエネルギーとしての原子力への期待も大きく、UAEはすでに4基560万キロワットの原発を稼働させ、さらに4基増設を計画と報じられました。サウジは280万キロワットの原発建設計画を検討しています。イラクは小型原子炉に関心を示し、ロシアの技術で建設した原発を稼働させているイランも増設が必要と考えており、経済規模の大きい産油国は原発重視の姿勢を示しています」

 ――水素・アンモニア、原子力といえば、日本の技術水準が高い分野です。

 「中東の脱炭素プロジェクトには多くの日本企業も参画しています。UAEでは三井物産が日本に輸出することを念頭に、化石燃料を原料とするブルーアンモニア製造時に発生するCO2を回収してカーボンフリー化したアンモニアを製造する事業を行っています。サウジでも同様に国営石油会社のアラムコと三菱商事などが共同で、カーボンフリー・アンモニアを日本に輸出し、石炭火力の混焼燃料に使う実証試験を実施しており、オマーンのグリーン水素プロジェクトには複数の日本商社が参画しています」

 「しかし、日本側の意思決定の遅さが問題視されています。日本は決めるのは遅くても確実にプロジェクトを完工させるが、中東側は早く決定してその都度調整しながら進めます。中国や韓国は現地の商慣習に合わせて進める傾向にあり、日本も学ぶべき点があると思います。原子力でも同じようなことがあります。24年10月にUAE原子力公社を訪問した際、公社幹部は日本の技術への期待を示したうえで、『多くの原発を10年以上動かしていない日本より、国民の理解を得て最新の設備を運用している私たちが日本に伝えられることもあると思う』と言いました。日本は教えるだけの立場ではなく、双方向の関係が成り立つ時代へ変化しているとも感じました」

 ――スケールが大きく、スピード感のある中東の脱炭素戦略に対峙(たいじ)してきて、日本のエネルギー・脱炭素政策はどうあるべきとお考えですか。

 「再エネ、原子力と、開発中のアンモニア火力を中核に電源を多様化していくことが重要です。電源多様化には様々な意見がありますが、冷静かつ現実的に対応していくべきです。データセンターの増設やAIの進化などによって電力需要の大幅な増加が見込まれる中で、日本のカーボンニュートラル達成に再エネと原子力は欠かせないということは国民に共有されつつあると思いますが、日本には中東諸国と同様に『再エネも原子力もクリーンエネルギー』とのスタンスも必要でしょう。22年に日本に戻って驚いたのは、電力の需給ひっ迫です。『まさか先進国で』とびっくりしました。そうした中で私が非常にもったいないなと思っているのは、建設途中の新しい原発が3基もあることです。既存原発の再稼働を進めるとともに、新しいプラントを安全に稼働させていくことが大切だと思います」

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2025年10月10日(金)
しんきんビジネスマッチング「ビジネスフェア2025」

ポートメッセなごや(名古屋市国際展示場)第3展示館
主催:ビジネスフェア2025実行委員会

東海地区34信用金庫の取引先が、ポートメッセなごやに自慢の商品、技術、情報、知恵を持ち寄って、展示・PRします。

2025年11月22日(土)~24日(月・祝)
Japan Mobility Show Nagoya2025

ポートメッセなごや(名古屋市国際展示場)
主催:中部経済新聞社、TOKAI RADIO、中日新聞社、中日スポーツ、東海テレビ放送

JAPAN MOBILITY SHOW 2025に出品された国内外の四輪・二輪車メーカーのコンセプトカーや最新市販車に加えて次世代モビリティに関する展示のほか、各種試乗会などの体験型催事など各種イベントの開催を予定します。

2025年11月22日(土)~24日(月・祝)
あいちITSワールド2025

ポートメッセなごや(名古屋市国際展示場)
名古屋市港区金城ふ頭二丁目2番地
9:00~18:00(最終日は17:00まで)
主催:愛知県ITS推進協議会、中部経済新聞社

「市民参加」や「ITS体験」を特色とした「ITS世界会議愛知・名古屋2004」の理念を継承し、愛知県がITSの先進県としてさらに発展していくことを目指して2005年にスタートしたイベント。

2025年11月22日(土)
第11回 全国高校生コマ大戦
Japan Mobility Show Nagoya場所

ポートメッセなごや(名古屋市国際展示場)
名古屋市港区金城ふ頭二丁目2番地
主催:中部経済新聞社、全日本製造業コマ大戦協会

2025年、11月に開催する「Japan Mobility Show Nagoya 2025」会場において「第11回全国高校生コマ大戦」を開催します。今回の大会では、東海地区の高校生を中心に全国から100チーム(予定)参加を募って実施いたします。