自動車③/仕入れ先の改善費用負担/グループで広がる賃上げ機運/トヨタ、調達部品価格に労務費織り込み
トヨタ自動車をはじめトヨタグループの間で、仕入れ先の労務費の一部を負担する動きが広がっている。仕入れ先にとっては人件費や職場環境整備に関する費用の原資になる。賃上げ機運の醸成につながっているようだ。
■トヨタグループも
トヨタは今年2月下旬、直接取引する仕入れ先の労務費の一部を、調達部品価格に織り込むことを明らかにした。労務費の上昇分や空調整備など職場環境の改善に必要な費用などを負担する方針だ。2024年度上期(4~9月)から実施している。対象は直接取引する国内の仕入れ先約400社になる。
仕入れ先の間で人手確保が重要な経営課題になる中、採用活動や働き方改革を後押しする狙いだ。
トヨタの動きに呼応して、トヨタグループの間でも仕入れ先の労務費を負担する動きが広がっている。デンソーや豊田自動織機、ジェイテクトなどは、仕入れ先の労務費上昇分を調達部品価格に反映する方針だ。
すでにデンソーは労務費などの変動について、部品価格の協議に応じるメッセージを全ての仕入れ先に対して発信。調達担当者も個別に仕入れ先を回っている。アイシンも仕入れ先にレター送付や電話、対面訪問を行い、労務費上昇分の転嫁について積極的に声掛けを進めている。
豊田自動織機も定期的に価格転嫁に関するヒアリングの場を設定。価格の協議に必要な資料の作成も手厚くサポートしている。ジェイテクトは定期的な価格協議に加え、仕入れ先から要請があれば、その都度対応するよう努めている。
■2次以降も前向きに
トヨタの1次仕入れ先に当たるトヨタグループの新たな経営姿勢を受け、2次以降の仕入れ先も賃上げに前向きな姿勢を示している。
トヨタ系のある2次仕入れ先の社長は「取引があるトヨタ系の全ての顧客から『労務費分を面倒みる』と言われているよ」と話す。また、別の企業のトップは「今年は4~5%の賃上げをしたい」と力を込める。トヨタグループはじめ1次メーカーからの労務費負担の動きが背中を押したという。一部の顧客からは、労務費を踏まえた価格の見直しを毎年実施する方針を伝えられ、前向きに自社の賃上げを検討できているようだ。
一方で、従業員百数十人規模のあるプレス部品メーカーの社長は「自社の収益が厳しく、まだまだ賃上げできる環境ではない。同規模の会社は同じように賃上げできていないのではないか」と打ち明ける。一部ではなお賃上げに二の足を踏む企業が残っているもようだ。
■満額回答
今春の労使交渉では、トヨタやデンソーなど大手企業で満額回答が相次いだ。さらにトヨタ系部品メーカーでは、トヨタ紡織や愛知製鋼、東海理化、フタバ産業、愛三工業が満額回答した。
全トヨタ労働組合連合会の吉清一博事務局長は「トヨタが仕入れ先の労務費の一部を、調達部品価格に織り込むという取り組みが、人への投資を後押しした」と振り返った。