自動車②/水素エンジンの開発進む/部品メーカーも培った技術で下支え/トヨタ、レース参戦し課題を抽出
2021年から始まった、トヨタ自動車のレース現場での水素エンジン開発。3年目となった23年シーズンは、気体水素よりも航続距離が伸びる液体水素を搭載し、自動車レース「スーパー耐久シリーズ」に参戦した。過酷な現場で課題を抽出し、クリアしながら着々と開発を進めている。また、部品メーカー各社も水素エンジンへの挑戦を培った技術やノウハウで支えている。
■航続距離伸長
23年11月、トヨタ自動車は、静岡県小山町の富士スピードウェイで、スーパー耐久(S耐)の最終戦・富士4時間レースに液体水素を燃料とする水素エンジン車両で参戦した。
1シーズン通じた参戦により、航続距離や車両の軽量化を向上させている。給水素1回あたりの最大周回数は、23年5月の24時間レースから25%向上し、20周に引き上げた。車重については、部品一つ一つの厚さや数を調整することで、前回走行のオートポリス大会から50キログラム軽量化した。
また大きな課題となっている、極低温化で駆動する燃料ポンプの耐久性の向上にも成功している。最終戦を終えて、ガズーレーシングカンパニーの高橋智也プレジデントは「大きな進化を遂げられた1年だった」と語った。
■部品メーカーも
トヨタ自動車の水素エンジン開発への挑戦を、部品メーカーも下支えしている。水素エンジンは電気自動車(EV)と異なり、内燃機関を用いながら、二酸化炭素(CO2)排出量を削減できる。部品メーカーとしても、既存の製品開発ノウハウや製造技術を生かせるメリットがある。
アイシンは、燃料タンク内で気化した水素を外に逃がすための弁(バルブ)の開発を担っている。液体水素用のタンクは構造などに工夫を凝らし、断熱性を高めているが、防ぎきれない入熱などで一部液体水素が気化してしまう。
アイシンのバルブは気化した水素を外部に排出し、タンク内の圧力を一定に保つ役割を持つ。
製品開発において、最大の課題が気体漏れを防ぐためのシール材の開発だ。バルブは気体を外に逃がす役割がある一方で、通常時には高い機密性が求められる。
超低温化の場合、耐久性の高い金属の面同士を密着させるが、気体漏れを防ぐためには面を磨く高い技術が必要になる。試作の繰り返しや、バルブメーカーとの協業で、磨きの技術を克服し、性能を磨き上げた。
燃料タンクなどを製造するFTS(本社豊田市)は、液体水素タンクの開発に挑戦している。タンクをこれまでのような円筒ではない形にし、車内のスペースを有効的に活用できるようにする狙いだ。
生かしているのは、板材に力を加えて容器のような形にする深絞り成形のノウハウ。ガソリンエンジン車で培った得意とする生産技術になる。
研究開発を担当する岩本宏明取締役執行役員は「将来的に合成燃料やアンモニアなど新たな燃料向けのタンク開発にも生かしたい」と強調する。
■ふさわしい音色
排気管などを生産する三五(本社名古屋市)は、液体水素エンジン用の排気管の開発に臨んでいる。トヨタから水素エンジンにふさわしい〝音色〟を求められたのがきっかけだ。排気音は走る楽しみや高揚感を盛り立てる。三五はかつてトヨタのスーパースポーツ車「LFA」で排気管を手掛け、音色づくりのノウハウを蓄積。水素エンジンでもこの実績が買われた。
開発中の排気管は全長が約2メートルと一般的な車両の半分程度だ。短いため排気ガスが冷えにくく、熱エネルギーにより騒音が出やすくなるという。小型化と消音を両立できる最適解を探り、今シーズンの搭載を目指している。これまでのノウハウを開発に注ぎ、脱炭素化に貢献したい考えだ。