エネルギー/事故のない安全なインフラへ/労働災害への対策強化/設備点検の技術向上も
中部地方のエネルギー関連事業各社が、技術者の安全対策を強化する動きや、発電設備などを点検する技術力を向上させる取り組みを進めている。脱炭素化の進展などで電気設備が増加傾向にあるほか、近年の自然災害の激甚化を受け、電気設備の安全対策の重要性が増している。各社は安全対策を万全にしてインフラ工事を進めることで地域社会を支えていく方針だ。
■電気事故は増加
経済産業省中部近畿産業保安監督部によると、管内(近畿支部と北陸産業保安監督署を除く)で2022年度に事業用電気工作物の設置者から報告のあった電気事故件数は、前年度比6件増の158件だった。雷などによる「波及事故」が5件増加したことが主因とされる。電気設備の作業者、監督者には、電気工事、電気保守に携わるプロフェッショナルとして、事故を起こさないという意識に基づいた正確、安全な作業が求められている。
■VR技術
中部電力グループで配電線や電気設備工事などを手掛けるトーエネック(本店名古屋市)は、安全教育施設「安全創造館」(名古屋市南区)の一部設備で仮想現実(VR)技術を導入した。労働災害を疑似体感できる自社設備で、従業員に実際の作業災害をより強くイメージしてもらう狙い。他の疑似体感設備へのVR技術導入も検討する。
同社の教育センター内にある安全創造館は、17年に開設した。労働災害撲滅に向けた環境づくりのため、基本ルールを学び、災害リスクの改善を繰り返し行っている。安全創造館にはさまざまな危険を体感する設備など31種類を用意している。
VR技術を導入したのは、踏み抜き体感設備。工場屋根上での作業中に天窓を踏み抜き、落下した災害を再現する既存設備に今年4月から導入した。7月末までに、新入社員を中心に300人以上が研修を受講者した。受講者がVR技術搭載の専用ゴーグルを着用して「沈降板」と呼ぶ場所の上に立つと、動きにあわせて疑似映像が360度出現。受講者のタイミングで歩いて天窓を踏み抜くと、自動で沈降板が下がる。専用ゴーグルに搭載したスピーカーからは周囲の作業者の声や、道を走る車の音などを流し、臨場感を高めている。
安全創造館館長の森本康氏は「事故災害をなくしたいのが一番の狙い。(これまでの安全研修の)見る、聞く、体感するに加えてVR技術などを融合し、命を守れるよう、社員教育に努めていきたい」と話す。
■ドローン活用
技術者の安全対策の向上に加え、電気設備を点検する技術力を高めることに力を入れる動きがある。
中部電力グループで発電設備の建設・保守業務を手掛ける中部プラントサービス(本社名古屋市熱田区)は、発電設備や工場の検査、分析でドローン(小型無人機)技術の活用を検討している。建物の劣化状況などを素早く、詳細に把握できる利点を生かす狙いだ。空撮データを3DCAD(コンピューターによる3次元設計)化し、他の点群データなどと組み合わせて画像を分析。プラント設備の設計などを計画する事業者に、詳細なデータを提案する。ドローンの操縦者育成や実証試験を踏まえ、3年後をめどに導入を目指す。