「人生に『楽しさの創造』を」
スギ製菓会長 杉浦 三代枝 氏
枝葉も良く茂る木は、細かい根が張っているという。「良樹細根(りょうじゅさいこん)」。もとは中国の思想家・荘子の言葉とされるが、イエローハット創業者である鍵山秀三郎さんの座右の銘でもある。そして尊敬する鍵山さんの座右の銘は、いまは私自身の経営信条になっている。
私は愛知県の三河地方のまち、碧南市の農家に生まれた。「勉強より働け」と言われて育ち、地元の中学校を卒業後は鉄工所に就職した。せんべいの機械を譲ってもらい、当社を創業。法人化して工場を建設した後も家業の気分は抜けず、問屋からの注文にただ応じる未熟な経営者だった。
そんな私が「人を生かす経営」を学び、経営方針(理念・方針・計画)を持った企業へと変わるきっかけとなったのが、「愛知中小企業家同友会」の入会だ。経営ビジョンは、スギ製菓らしくスギの木をイメージした。千年の時を刻む屋久杉のように、当社も200年存続する企業でありたいとの思いを込めた。
スギ製菓という幹は、せんべいをはじめとする菓子の企画開発・研究。茂る枝葉は顧客であり、商品や直営店「えびせん家族」というサービスであり、ステークホルダー(利害関係者)の幸せである。しかし、最も大事なのは木の根となる経営基盤だ。私はこの経営基盤こそ、人が育つ組織風土づくりだと確信し、この土壌を築くことに情熱を傾けてきた。
社員が参加して行う経営指針発表会や掃除の徹底、懇親会などさまざまな行事を通じてスギ製菓の土壌を作ってきた。しかし、これもイエローハットの鍵山さんとの出会いがあったからこそ。鍵山さんとともにトイレ掃除大会に参加したことが自分の考え、思考を変える大きな体験となった。
私は来年、喜寿(77歳)となる。自分と家族で始めたスギ製菓は今、売上高約30億円、グループ社員約230人に成長した。すでに経営は、息子の敏夫(社長)に託した。あとどれくらい社会や会社に貢献できるか分からないが、スギ製菓という土壌を豊かにするための人育ては、これからも続けるつもりだ。
今回、中部経済新聞社から半生を振り返るきっかけをもらった。経営者として未熟だった自分が、鍵山さんや愛知中小企業家同友会の同志、地域の経営者仲間から学び、経営者としての生き方がどう変わったのか。少しでも読者の指針となれば幸いである。 私の人生は、スギ製菓の経営理念「楽しさの創造」そのものだ。そんな物語を始めよう。
<プロフィル>
杉浦 三代枝(すぎうら・みよし)1970(昭和45)年、スギ製菓を創業。82年法人化と同時に社長就任。2013年から会長。碧南商工会議所副会頭。元愛知中小企業家同友会会長。碧南市出身。76歳。
著者企業紹介
本社:愛知県碧南市
1970年に碧南市で創業。「楽しさの創造」を経営理念に掲げ、海鮮せんべいをはじめとする菓子を製造。土産物向けせんべいをOEM(相手先ブランドによる生産)で全国に供給するほか、直売店「えびせん家族」を三河地方で運営、通信販売も手掛けている。2025年8月期の売上高を前期比9%増の30億円、経常利益は50%増の1億2千万円とする方針を掲げ、着実な成長を遂げている。
