「変化したからこそ今がある」
買取王国 会長 長谷川 和夫 氏
連載にあたって
読者の方は、不要な品を売ったり、中古品を買うために「買取王国」にご来店されたことはあるだろうか。衣料品、生活雑貨、家電品、工具などの中古品を買い取り、品によってはクリーニングや修復などを行って必要とするお客さまへと橋渡ししている。限りある資源を有効的・効率的に利用する「資源循環型社会」が必要とされる中、それを支えるリユース業界の一翼を担わさせていただいているのがわが社だ。
現在、主力の「買取王国」「工具買取王国」「マイシュウサガール」「良品買館」「モノドネ」など全業態で74店(FC6店含む)を展開しているが、今日に至るまでには現店舗数と同等以上の閉店や業態転換を経験してきた。それだけ小売業を取り巻く環境変化が激しく、その時々の変化に対して、決断と迅速な対応がなければ、生き残れてはいない。まさに時流適応業である。
先代である私の父櫻井新一は1946(昭和21)年に満州から命懸けで祖国日本に戻り、生き残った者として、荒廃した日本を復興させたいと事業を興した。父は事業意欲が旺盛で、楽器やレコード、家電の卸、小売りなど複数の会社を経営していた。「社会の幸福と繁栄のために奉仕する」「正しい商人道に精進する」などを経営の基本方針に掲げ、熱心な仕事ぶりでも多くの人に慕われた。
しかし、私が修行時代を過ごした東芝EMIを26歳で辞めて実家を手伝うようになった1年半後に突然亡くなり、身近に経営を相談できる、手本となる人がいなくなってしまった。
このままでは会社はいつか無くなってしまうという危機感から、いろいろなことに挑戦した。また、レコード店と本、ビデオレンタルなどを融合した店舗「ダンシングベア」への業態移行を進めていた。その後、大手レンタルショップ「TSUTAYA(ツタヤ)」が名古屋に進出し大打撃を受けた。打開策として中古書店「ブックオフ」を導入し大繁盛したが、時代の流れを感じて総合リサイクルショップへの転換を図ったが、その時にもリーダーだった弟が急死するなど、予期せぬ困難がとめどなく押し寄せてきた。これらを一つずつ乗り越えられたのは、支えてくれた社員、経営の基本を教えてくれた師と友の存在のおかげである。
「魚は川の流れまで変えられないが、どんな流れにも合わせて生きることはできる」という。本来人間は、自然の法則、理法を知って、人生をそれに従って自分の意志で道を拓(ひら)くものだ。私なりに時流に沿った決断と挑戦の歴史を振り返り、皆さまの経営などのヒントになることができれば幸いだ。
〈プロフィル〉
長谷川 和夫(はせがわ・かずお)上智大法学部卒。1974年東芝EMI入社。78年共和商事入社、90年社長。99年共和フーズ、マルス(買取王国の前身)設立と同時に社長就任、2023年買取王国会長。名古屋市出身。73歳。
著者企業紹介
本社:名古屋市港区
1961年設立の共和商事から独立し、99年にマルス(現買取王国)を設立。東海地方を中心に総合リユース店「買取王国」ほか、中古工具専門店「工具買取王国」、中古衣料店「マイシュウサガール」などを展開している。2013年に大阪証券取引所ジャスダック市場に上場(現在は東京証券取引所スタンダード市場に移行)。24年夏にベストバイ(本社大阪府)から総合リユース店「良品買館」事業の一部を取得するなど、関西圏での事業も強化している。24年2月期売上高67億3900万円、純利益3億6千万円。
