[未来を描く・17] 永井淳(新東工業社長)氏に聞く 技能を磨き、選ばれる会社に 培った技術に応用加える 新規事業育成にも注力 販路開拓へ企業連携も
鋳造設備メーカーの新東工業(本社名古屋市)は今期、2024年3月期を最終年度とする新中期経営計画をスタートした。グローバルの顧客数は3万2500社と、21年3月期よりも2500社増やす目標。事業を取り巻く環境が変化する中で、祖業の鋳造分野以外の割合は向こう3年間で4ポイント増の68%へと高まる通しだ。培った要素技術に応用を加えていくと同時に、技能を磨き、選ばれ続ける会社を目指す。(聞き手、編集局長・大橋昌寛)
―30年に目指す企業像は。
「『モノづくりを支える、モノづくり』に取り組み続ける。鋳造工場へ設備を提供する中で、材料や型、表面加工、評価といった工程に関わるさまざまな要素技術を培ってきた。そこにIoT(モノのインターネット)の活用、エネルギーのハンドリング、無人化、環境負荷の低減など新しい技術を加えて社会課題の解決に向けた提案を行う。基本理念『素材に形を与え いのちを吹き込む』の思いの下、他者との協業も模索しながら意外性のあるメーカーを目指していきたい」
―コロナ禍で打撃を受けた。足元の事業環境は。
「創業は1934年。鋳物をつくる機械をつくることから始まり、鋳造設備メーカーとして事業を拡大してきた。ただ、自動車でいえば軽量化など時代に合わせてニーズも動く中で、新型コロナウイルスの感染拡大前から、大きな変わり目を認識していた。それがコロナによりさらに加速されたと感じている。培った要素技術に新しい技術を加え、チャレンジし変革を急ぐ」
「業績は前期、ピークの19年3月期から約3割落ち込み、足元では1割減程度まで戻った。仕事の負荷でみれば、すでに回復している。コロナ禍の業績への影響は否定できない。一方で、デジタルの活用や海外拠点の強化などは進んだ」
―コロナ禍で学んだことは。
「やればできる、ということ。たとえば海外での設備の立ち上げを遠隔で行わなければならなかったり、対面せずに提案、PRをしなければならなかったり。昨年設立した映像制作子会社を生かしながら工夫した。今後も、リアルとデジタルを組み合わせて効果的にニーズに対応していく」
―経営計画の目標値に顧客数の増加を掲げている。
「目標値は売り上げ規模ではなく、あえてお客さまの数であらわしている。世界17カ国で事業を展開しており、日本人の社員がいない海外拠点も多い。わかりやすいメッセージを送る必要がある。景気が上下しても、ひとつだけ上げ続けたい数字がある。それは何かあれば当社に相談してくれる、頼ってくれるお客さまの数だ。お客さまの数だけは、会社の年輪とともに増やしていきたい。だから一社ずつのお客さまを大切にしていく、それが新東工業の経営の根幹だと伝えている」
―具体的な取り組みは。
「お客さまに設備を使ってもらい喜んでいただくためには、我々一人一人が精進しなければならず、技能をしっかりと磨いていくことが重要だ。(少子高齢化で)オールマイティーに機械を見ることができる社員は少なくなっており、技能の継承が課題。『活人主義』と呼んでいるが、技能を伸ばそうと努力する社員を評価する仕組みを整えている。既存のお客さまにはアフターサービスを拡充して選ばれ続けるための努力を重ねる。新規のお客さまには、当社を見てもらえるよう提案に注力する」
―新規事業の育成にも力を入れている。
「おむつの中に取り付ける排せつ検知システムやロボット用力覚センサー、(工場などの床を汚れが落ちやすいようにする)磨き床、食品用金属検出機など、これまでの領域から派生した新規事業を育成している。しかし、技術はあるがマーケットを知らない。介護施設向け、商業施設向け、食品メーカー向けなど、新市場の開拓を進める上で、手を組める先も模索する」
「海外拠点についても、進出は前中計でひと段落した。今後は、各国の事業をさらに強くしていくために社会的なニーズを見極めながら、技術導入やM&A(合併・買収)を含め連携を求めていく」
―カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量実質ゼロ)への取り組みは。
「鋳物工場全体の中でどこでエネルギーが発生しているか、ソフトで見える化したり、設備の電力使用量を減らすなどの取り組みを行っている。細かな改善を積み上げる」
■2030年に向けたキーワード/Plus(プラス)
お客さまに、社員に、環境に、そして社会にプラスになる取り組みを進める。事業を取り巻く環境が大きく変化していくなかで、一人一人の技能を磨くことで、さらなる成長につなげていく。
<プロフィル>永井淳(ながい・あつし)84年慶応大商学部卒、新東工業入社。96年取締役。常務、専務、副社長を経て06年6月から社長。60歳。名古屋市出身。