[中部圏特集] 中部経済連合会会長 水野明久氏(みずの・あきひさ) に聞く コロナ禍踏まえた経済対策は
中部経済連合会は8月、コロナショックからの経済の早期回復とポストコロナを見据え、準備・推進すべき競争力の再興に資する経済対策要望を取りまとめ、西村康稔経済再生担当大臣に手渡した。すでに投入されている政策の迅速かつ確実な実施に加え、今後の感染状況や需要回復の動向を踏まえた柔軟でスピーディーな政策の追加投入を強く要望した格好だ。コロナ禍を踏まえた経済対策はどうあるべきなのか。中経連の水野明久会長(中部電力相談役)に聞いた。
―コロナで顕在化した新たなリスクに対し、首都圏の過度な集中の是正を指摘する声が高まっている。
「東京一極集中の是正はなかなか進まず、むしろ集中が加速している。一方の地域では、人口の流出によって産業が衰退するなどして、地域経済が疲弊し首都圏との格差が拡大している。そのような中、首都圏を中心にコロナが拡大し、過密によるリスクが顕在化したことや、コロナを機としたリモートワークの普及などによって、地域で住み、働く意向が高まりつつある。働くスタイルも居住スタイルも大きく変わっていく可能性ある」
「経済界でいえば、東京に集中するゆえのリスクが多い。首都圏直下型地震などの震災があった場合、日本の経済活動は止まってしまう。国には首都機能をいくつかの地域に分散して配置することや、企業の過度な集中も緩和するなど、首都圏の過度な集中を是正することが必要だ。均衡ある国土の発展につなげてほしい。東京一極集中是正の面で中部地域が果たせる役割は大きい。西村大臣に直接要望書を提出したように、経済界としてしっかりと声を上げ伝えていく」
―首都圏直下型地震などに備える意味でも、中部国際空港の2本目滑走路の早期実現が求められている。
「中経連の重点課題の一つに、中部空港の2本目滑走路を現実のものとすることを掲げている。スーパーメガリージョンの一角としての中部圏発展のためでなく、リニア中央新幹線圏内に存在する首都圏第3空港としての機能整備という観点に立った、国家的なプロジェクトにすべきだ」
「インフラに関しては、中部空港の2本目滑走路やリニアに加え、東海環状自動車道の全線開通が加われば大動脈ができる。空港に関しては、コロナ禍で需要が落ち込んでおり、格安航空会社(LCC)のエアアジア・ジャパン(常滑市)が事業継続を断念すると発表したことは極めて残念だ。ただ、開港してから15年経過する中、空港機能の維持に必要な滑走路の経年劣化に対する大規模改修のため、さらには首都圏直下型地震などに対する備えとして2本目滑走路の早期整備を目指していく」
―中部5県の産学官広域連携の具体化、実体化も課題の一つに掲げている。
「広域課題に対する戦略を議論し、推進していく必要性については、今年2月に開いた中経連主催の産学官代表者の集まりで皆さんと合意している。例えば、防災や観光の面でいえば、各県がそれぞれに施策を打っているが、これらをつなげれば、より大きな効果が期待できる。広域経済団体が間に入って、大学など学術機関ともしっかり結び付けていけば、中部圏全体の底上げにもつながる」
「広域課題を産学官で協議する場を、仮に『中部圏戦略会議』と名付け、2021年度以降の設立を目指すのが第1ステップだ。20年度は具体的なテーマを決めてスタートする準備を進めている。これをトップの会議体とすると、第2ステップは、実務部隊としての事務局を置く中部圏版OECD(経済協力開発機構)のような、より実効性ある組織へ発展させることだ。ただ、実現は焦らない。広域連携の話しは、関係者の皆さんがこれはやった方がいいね、という効果が目に見えてこないといけない。しっかりと議論し、意見を積み上げ、成果を出していきたい」
―7月に内閣府から愛知・名古屋と浜松地域が「スタートアップ・エコシステム グローバル拠点都市」に認定された。
「認定を受けて、中経連や名古屋大学、愛知県、名古屋市などで構成するコンソーシアム(共同事業体)が9月にナゴヤイノベーターズガレージ(名古屋市中区)で開いたキックオフイベントは大変盛況だった。ガレージは7月に設立後1年を迎えたが、オープンからの延べ来場者数は2万2千人を超えた。コロナ影響で春先はイベントや利用者が減ったが、足元は需要が戻ってきている」
「グローバル拠点都市の認定をきっかけに、われわれは、より活発に動くことが求められている。ガレージのほか、起業家やベンチャーの育成拠点「なごのキャンパス」(名古屋市西区)や、名古屋大学でもスタートアップをたくさん輩出する取り組みに力を入れている。産学官がうまく連携して盛り上げていくことが、是が非でも必要だ。中経連としては引き続き、スタートアップと企業をマッチングして、大きくする仕組みをつくっていく。マネジメントやファイナンスなどに関して、メンター(助言者)に相談できる仕組みを徐々に整えているが、相談者がどんどん増えてくることを期待したい」
「技術などの新しい芽に関しては、各企業個別で動きがあると思うが、それを外に広げる仕組み、工夫も必要かもしれない。オープンイノベーションは、いわば異業種で化学反応を起こすことだ。大学も常に新しい挑戦に取り組んでいる。オープンイノベーションによって、新しいビジネスモデルを生み出すこともできるはず。産学官が強力に連携することで、さまざまな社会の分野でイノベーションを起こす発火点にしたい。中経連は産学官をつなぐ役割をしっかりと果たしていきたい」