サム・ウォルトンと倉本長治

更新日:2010年 8月17日 (火)

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 安井家具の取材に訪れた時、1人の経営コンサルタントを紹介された。1971年にスペシャリティ研究所を設立し、主にノンフーズの業態開発をサポートしてきた石原靖曠という人だ。
 社内行事の控え室でのことだったので、ほとんど名刺交換だけの出会いとなったが、後日、「サム・ウォルトンと倉本長治」という著作を贈っていただいた。
 本書は「商業には、好業績を上げて成長発展することを超えて、果たさなければならない大切な役割があるのではないか」との問いから始まり、雑誌商業界の主幹を務め、経営指導に尽力した倉本長治と、ウォルマートの創業者、サム・ウォルトンの「人と哲学」を追っている。
 倉本長治の残した有名な言葉「店は客のためにある」については、多面的分析を試みている。生活者から見た「店」の役割は「選択の自由の提供」であり、実現に必要なのは、終わりのない業態開発の連続であり、品ぞろえの豊富さと安さの追求にある、と明快に語ることができるのは、長いコンサルタント活動に裏打ちされた真実だからだろう。
 株式公開についての見解も興味深い。確かに社会的認知を得る利点はあるが、株式公開企業は株主にいかに多くの利益をもたらすかが評価基準となり、この考えにとらわれ過ぎると、店は客のためにあるのではなく、株主に利益をもたらす手段へ転落しかねない、と警告しているのだ。
 さらに、利益の追求を目的に、商品回転率の悪い商品のカットを繰り返しているうちに、店は魅力を失い、売り上げが減少していく、という落とし穴にも言及している。
 著作の帯には「店は客のためにあり、店員とともに栄え、店主と共に滅びる」という衝撃的な文字が並んでいるが、読み進んでいくうちに、これが倉本長治の有名な言葉の全体なのだと教えられる。
 店が客のためにあることや、店員への謙虚な評価を忘れた店主は、破滅への道を歩み始める、というわけだ。
 倉本長治の商業哲学に続いて、エンプロイー(従業員)をアソシエート(仲間)と呼んだことで知られるサム・ウォルトンの経営スタイルを紹介。「面識も接点もなかったはずの2人が追い求めた商人哲学の重なり合う一点に、商業の本質があると確信した」と記している。
 サム・ウォルトン、倉本長治ともに、商業人にはよく知られている偉人だが、2人の共通点から普遍的価値を探る貴重な試みがなされており、市場の利益を追求するだけではうまくいかない、との認識が世界中に広がるリーマンショック後の状況の中で、新たな輝きを放つ1冊となっている。

 
 

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