福島で磨く中部のモノづくり(3)
デンソー福島、知恵と工夫本社へ逆輸出 片山製作所、団結力刺激に
２００８年に設立したデンソー福島。リーマン・ショックと東日本大震災により工場の操業を２度延期するなど、スタートは苦難の連続だった
震災発生直後は、完成したばかりの工場で避難住民延べ１８００人を受け入れたほか、同年５月には被災により操業が停止した藤倉ゴムの小高工場（南相馬市）に建て屋を貸し出した。ゴム練り工程のカーボンで赤茶色に変色した工場の床は「震災を忘れないように」（同社）と今もそのまま残している。
◆認められた実力
震災を乗り越え、１１年１０月にカーエアコンの生産を開始。１４年にエンジンクーリングモジュールの生産を加え、１８年にはガソリンエンジン用燃料系部品の新工場を稼働した。岩瀬雅俊社長は「事業の拡大は福島の実力が本社に認められた結果だ」と誇らしげに語る。
同社は、当初から中部のマザー工場と同様の最新設備を導入。部品の成形、組み付け、製品出荷までを直線でつなぐレイアウトを追求し、効率化を高めた。
このほどトヨタ自動車東日本（本社宮城県大衡村）で造る車種の順番に合わせ、カーエアコンの混流、順序生産も始めた。製品ごとの部品をまとめてラインに供給し組み付ける。在庫ゼロを目指す新たな挑戦となる。
同社の技術向上を支えるのは、従業員の知恵と工夫が詰まった「からくり」の仕組みだ。カーエアコンの生産工程では、力を使わずにワンアクションで部品をはめ合わせる装置を開発。女性や高齢者でも簡単に作業できるようにした。生産性向上や働きやすさの改善に貢献し、本社工場に逆輸出した初の事例となった。
自動車部品の金型製造を手掛ける、片山製作所（本社可児市）のいわき工場（福島県いわき市）。１９７０年に設立し、およそ５０年にわたり低コストで高品質な金型製造技術を磨いてきた。現在は売上高の７割を占める稼ぎ頭だ。直近１～２年でセラミック事業を手掛ける本社から金型設備を移管し、事業を集約した。
◆根付く強い結束
本社を置く可児といわきの間では、人材交流が活発に行われている。本社入社の成田信幸取締役管理本部長は「金型の納期を守るために一致団結するいわきのチームワークには驚かされる」と語る。いわきに根付く強い結束力が、社内に大きな刺激を与えている。
近年は、ハイブリッド車の電圧を変換する「コンバーター」のケースなど、大型部品の金型需要が増えている。材料の流し方や投入口の決め方などに高い技術力が求められるのが課題だ。豊田弘幸取締役金型事業部長は「対応できる企業はまだ少ない。顧客と共に培ってきたノウハウを生かし、早期に体制を整えたい」と意気込む。
電気自動車（ＥＶ）の需要拡大に向け、新規事業に乗り出す。２１年春をめどに福島県富岡町に新工場を稼働し、ＥＶなどに搭載する部品の製造を始める計画。事業領域を広げ、持続的な成長につなげる。
