福島で磨く中部のモノづくり(1)
復興から創生へ共に歩む 高木製作所、30年ぶり新工場
東日本大震災の発生から、ことしで9年が経った。原子力発電所事故や津波で甚大な被害を受けた福島県では、復興と共に中部地方の自動車産業集積が進んでいる。復興から創生に向けて、被災地と共に歩みを進める中部企業の動きを追った。
「今は足場を固め、お客さまの信頼を勝ち取りたい」―。自動車用プレス部品などを手掛ける高木製作所(名古屋市)で東北事業を担う福島高木(福島県郡山市)の本多敦志社長は、噛み締めるように語る。2019年5月、およそ30年ぶりとなる新工場を郡山市に竣(しゅん)工した。
◆充実した交通網
進出場所の選定にはおよそ3年をかけ、東北地方の20カ所以上を候補に検討を重ねた。決め手の一つは、充実した交通網。磐越自動車道と東北自動車道が交差する位置にあり、東北と北関東の顧客に部品を供給する同社にとって最適な立地だ。
地元の人材力も大きな判断材料になった。同工場で働く30人の平均年齢は29・5歳。モノづくり未経験者が大半だが、「まじめで素直な人が多く、上達が早い。良い人材をそろえられた」(本多社長)と期待を寄せる。
郡山市出身の鈴木直弥さん(23)は、溶接の一工程でリーダー格の職責を担う。「モノづくりが好き。クルマという身近なモノの一部を造っていることにやりがいを感じる」と目を輝かせる。
◆「カイゼン」の芽
工場竣工時に29品目でスタートした生産部品は現在約100品目に拡大。技術力の向上に加え、「カイゼン」の芽も着実に根付いている。
高い生産性と低コストを実現する独自の「高速搬送プレス」は、プレスに続き製品をアームがエア吸着して次の工程に運ぶ。このアームを立てて収納する専用装置が、福島で働く従業員のアイデアから生まれた。アームのゴム部分が重なって生じるゆがみを防ぐ工夫だ。
本多社長は「高木グループで一から立ち上げる工場は久しぶり。小さく生んで、じっくり育てたい」と強調する。既存のノウハウを移植するだけでなく、現場で生まれた文化を大切に育て、成長につなげたい考え。
◆企業の受け皿に
福島では、中部の自動車関連企業が事業を拡大している。デンソーは郡山市に近い田村市に08年に現地法人を設立。カーエアコンやエンジン用燃料系部品を製造している。
福島県は、企業集積の受け皿として首都圏に隣接する白河市や、輸出入の拠点となる小名浜港があるいわき市などに複数の産業団地を整備している。
進出企業には、土地や建物などの投資に最大2分の1を補助する「津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金」や、不動産取得税控除、電気料金補助など手厚い優遇策を用意する。
人材確保のサポートも充実している。県内の教育機関と連携し、高度な技術力をもつ人材の採用を支援する。
福島県企業局経営・販売課販売推進担当課長の飛知和好夫氏は「地元福島で働きたい人に、雇用の場を提供したい」と力を込める。