環境特集
海洋生物の命を脅かすゴーストギア
毎年800万㌧以上のプラスチックが海へ
近年、プラスチック汚染が急速に拡大し、国際的な環境問題のひとつになっている。プラスチックごみの約9割はリサイクルされず、毎年800万㌧以上、ジェット機5万機分に相当する重さのプラスチックがゴミとして海に流れているという報告がある。こうしたプラスチックの一部はマイクロプラスチックと呼ばれる細かい破片となり、有害物質が付着しやすくなる為、魚がエサと間違えて食べてしまう。その魚を私たちが食べているということを知れば心配どころか恐ろしさを感じてしまうのではないだろうか。
海洋プラスチックごみの中でも、生物に深刻な被害を与えるとして早急な対策が求められているのがゴーストギアだ。その正体は幽霊のように海中を漂う漁網やロープなどの漁具である。ゴーストギアのほとんどは、プラスチックでできており、毎年推定で50万㌧から100万㌧が世界の海に流出しているという。
プラスチック漁具はその丈夫さゆえ、海へ流出した後も分解されることはなく、その数は年々増え続けている。そして海洋生物にとって最も致命的なプラスチックごみとなる。ウミガメやアザラシ、アシカなどが絡まって死亡したり、サンゴをはじめ、海底の地形や植生を破壊するなど、海洋生物を次々と苦しめている。
必要な分だけの魚を捕獲するために作られたはずのプラスチック漁具が海中に廃棄され、海洋生物を余剰に捕獲してしまう海の脅威となっているのだ。
経済にも悪影響を及ぼす漁具のごみ化
漁網やロープなど、ゴーストギアの原因となる漁具は高価なものであり、漁業者にとって欠かせないものだ。なのになぜ大切な漁具を海に廃棄・紛失してしまうのか。天候や潮流など、自然の力に左右される漁業では、人為的ミスだけでなく、不可抗力により漁具が流出することがある。また、違法・無報告・無規制漁業を隠すため毎年800万㌧以上のに大量の漁具が廃棄されることもある。最近の調査によれば世界中で使用されている全ての漁網の5・7㌫、籠や壺などの仕掛けの8・6㌫、釣り糸の29㌫が自然界に放棄、逸失、もしくは投棄されているという。
ゴーストギアは海洋生物にとって大きな脅威になっているだけでなく、経済的な損失も生み出している。高価な漁具を喪失する経済的な打撃ももちろんだが、海に漂うゴーストギアは航海の障害物となり、船舶の推進力や操作性を妨げ、航行を遅延。それが事故につながり、船員や乗客に怪我をさせ、命を奪うことさえある。観光への悪影響も生じている。
予防策としては▽所有者を特定できるようなマーキング▽流出しにくい形状改良▽海中で分解されやすい素材の開発―などが挙げられる。実施するにあたっては漁業者だけでなく、港湾関係者、NGO、研究者、政府などを含めた世界的な連携が必要となるが、この問題に取り組むことを目的とした国際協定は存在しない。2015年にGGGI(グローバル・ゴーストギア・イニシアチブ)という組織が発足したが、中心になっているのは民間企業やNGOであり、政府として参加しているのは20カ国にとどまる。日本は未参加だ。
ゴーストギア問題は、国や地域レベルでは解決できず、拘束力のない自主的な措置だけでは対処できない。法的拘束力のある新しい国際協定が必要なのかもしれない。