環境特集
静かなる革新急加速のEVシフトに潜む死角
厳しくなる環境規制新旧プレイヤーが覇権を狙う
地球規模の環境規制強化を受けて、とりわけ慌ただしい動きを見せているのが自動車産業だ。内燃機関で走る従来型の自動車においては、新車販売を2030年をめどに禁止する国や地域が増えており、世界の主要市場はEV(電気自動車)化という流れでほぼ一本化している。EVは車体構造や部品を簡素化でき、自動運転の制御がしやすいことから、ITや通信、電機など異業種からの参入も相次ぐ。ただ、普及への課題は多い。コストと性能については技術革新や量産効果で解消できるとしても、国や地域で異なるエネルギー需給構造は企業の力だけではどうにもならない。
EVは走行中にCO2を出さないが、その電気が何からつくられているかをさかのぼれば、必ずしも環境に優しいとは限らない。石炭火力でまかなわれるなら本末転倒だろう。新車販売のEV比率が過半数のノルウェーは、世界有数の石油産出国ながら、電力の90%以上を再エネの水力でまかなっている。EVは寒冷地だと"電費"が悪くなるという弱点がある。ノルウェーは寒冷地だが、それゆえ従来からエンジンオイルが固まらないよう、ヒーター用の電源が戸建、集合住宅問わず設置されており、それを利用することで充電インフラを迅速に整備できた。同じ集合住宅でも、管理組合問題が立ちはだかる日本とは、バックボーンが大きく異なる。
基幹産業ゆえの問題雇用にも大きく影響
そもそもEVシフトに対して日本は、有利な立場ではない。電源構成で7割強を火力が占めることに加えて、自動車が基幹産業ゆえに雇用にも大きく影響する。自動車関連の就業人数は約546万人。全就業人数の8・2%を占める。グリーン成長戦略で打ち出した目標が「遅くとも2030年代半ばまでに乗用車新車販売で電動車100%を実現できるよう、包括的な措置を講じる」と曖昧なのは、自動車業界に打撃を与える事態を避けたいからではないだろうか。伝統ある自動車業界が築き上げてきたサプライチェーンや販売網は確かに強じんだ。しかし時代とともに土台となる前提条件が変われば、新たに整備したほうが合理的かつ効率的だろう。新興のEV専業メーカー、テスラが短期間で躍進できたのは、そうしたしがらみのない身軽さが一因ともいえる。
新旧プレイヤーが覇権を狙う自動車業界。その勢力図はEVシフトによって塗り替えられるかもしれない。