環境特集
持続可能な開発目標SDGs①社会貢献と企業利益との両立ESGが呼び込む世界の投資マネー
投資家が重視する環境・社会・企業統治
SDGsと合わせて注目を集めているESG投資。業績や財務状況だけでなく、Environment
(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)といった非財務面の要素も考慮した投資だ。
ESGという概念が認識され始めたのは、2006年に当時の国連事務総長のアナン氏が機関投資家に対し、ESGを投資プロセスに組み入れるPRI(責任投資原則)を提唱したことがきっかけ。PRIは、環境・社会・ガバナンスそれぞれの課題と投資の関係性を理解し、署名機関がこれらの課題を投資の意思決定や株主としての行動に組み込む際に支援することを目的とする。リーマンショック(2008年)後、短期的な利益を狙う投資スタイルへの批判や反省により、世界の多くの投資機関がこのPRIへ署名するようになった。2020年4月時点で3054の年金基金や運用会社などがPRIに署名。日本でも150兆円以上の年金資産を管理・運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が2015年にPRIに署名した。
このように世界の投資マネーはESG投資へ向かっており、SDGsへの取り組みはその投資対象を選定する際に大きな材料となる。投資家の目から逃れることができない上場企業や大企業にとって今や常識になっており、今後は取引先の選定基準のひとつとして一段と重要視される。そうなると中小企業の経営にもESGの視点は欠かせなくなる。
すでに社会貢献あるいは製品・サービスの提供価値を通じて、いくつかのSDGsに貢献している企業は多い。ただ、後づけの理由でSDGsの目標に結びつけていては、本質的に取り組んでいるとはいえない。中長期の経営計画や戦略にSDGsの視点を組み込むことが求められる。分かりやすいのは認証制度の活用だ。組織のマネジメントシステム(仕事を管理する仕組み)の国際規格としてISO規格が有名だが、そのほか水産資源では「MSC認証」、森林関係では「FSC認証」「SGEC国際森林認証」「PEFC国際森林認証」などがある。専用のラベルを添付できるので、消費者にも伝わりやすい。これらの取り組みは、SDGsの14番目「海の豊かさを守ろう」、15番目「陸の豊かさも守ろう」に結びつく。
コロナ禍で加速するグリーンリカバリー
新型コロナウイルスによって影響を受けた社会や経済を、持続可能な方法で復興しようとする「グリーンリカバリー」の機運も欧米を中心に高まっている。代替エネルギーの開発やCO2排出抑制など環境保護につながる分野への投資を増やし、ポストコロナ時代の経済復興と脱炭素社会への移行を両立させようという考え方だ。
このグリーンリカバリーを後押しするかのように、グローバル企業155社は今年5月、各国政府に対し、気候対策と社会対策の連携を求める共同声明「ネットゼロ・リカバリー」を発表した。署名した企業は、ユニリーバ、ネッスル、ヒューレットパッカード、イケア、セールスフォースなど。日本からは前田建設工業、丸井グループ、高砂熱化学工業、YKKが参加した。
新型コロナウイルスからの経済復興が喫緊の課題となるなか、グリーンリカバリーの動きはSDGsの取り組み、ESG投資のさらなる広がり、そして政策のあり方を根源から問う大きな契機になりそうだ。