沖縄県・尖閣諸島をめぐる日中関係悪化などの中、中国の大気汚染問題が深刻化してきた。中国との経済関係に新たな障害となりかねない事態だ。
日本でも中国から飛来が懸念される微小粒子状物質「PM2・5」をめぐり、国民の関心が高まっている。例年春先に飛来する黄砂と相まって、中国の大気汚染が日本の環境に影響を与えないか心配だ。北京市では大気汚染防止に向けた条例作成の動きが出ているが、中国全土に広まらないことには効果がない。環境汚染問題を軽視した高成長のツケが、誰の目にも明らかになってきた。
日本では経済の高度成長の末期に全国で環境問題が噴出した。水俣病訴訟や四日市の公害訴訟を通じて、汚染源である企業の責任が問われ、各企業は膨大な経費を公害防止のためにかけるようになった。これらは企業のコストアップ要因になり、高度成長が安定成長に移行する一因ともなったが、大気や水質は格段に浄化されきれいになった。世界でもっとも厳しいといわれた自動車の排気ガス規制も貢献した。
中国でも長く続いた二桁の高度成長の影で、大気や水質汚染は深刻の度を増している。過去の日本がそうだったように、企業が目先の利益に追われて環境対策をなおざりにすれば、ツケは次世代に及ぶ。
日本で企業や行政が重い腰を上げて環境対策に乗り出したのは、続発する住民運動や訴訟を受けてのことだ。その後、40年余の時間の経過とともに、日本企業の公害防止技術は洗練され、「世界に冠たる」とまで言われるようになった。
半面、中国では十分な政治的自由がない中、経済的なキャッチアップが優先され、環境対策は後手後手になっていたのではないだろうか。大気汚染はすでに国境を越え、この問題で早々に日中間協議を行うことが必要だ。また、日本が積み重ねてきた知見を提供することも考えられるが、中国側が本気になってこの問題に取り組むことが前提だ。
中国の経済規模は日に日に拡大し、2012年の貿易総額(輸出+輸入)は前年比6・2%増の3兆8667億ドルとなり、米国を抜いて世界一位になった。輸出額は09年にドイツを抜いて世界一になっていたが、名実ともに世界最大の貿易大国になったことで、世界経済における存在感は一層高まった。
このため、世界に対する責任も相応に求められる。我が国も、歴史的な問題はあるものの、中国とは成熟した大人の国同士として「言うべきことは言う」スタンスを築いていくべきだ。